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『The Last of Us PartⅡ(ラストオブアス2)』ストーリーに没入させるライティングテクニック

 

ども、ルンバです。

ラスアス2ブログ、書きたい事多すぎて3つ目になってしまいましたが、

これで完結です。

今回は「ストーリーに没入させるライティングテクニック」というテーマで語りたいと思います。

ライティングについて以下2つのお話をしたいと思います。

・ユーザーを導くライティング Follow the light

・ユーザーの感情を誘導する ハリウッドのライティング手法

また、今回はストーリとライティングの解説をする上でネタバレを含みますのでご了承ください。

ユーザーを導くライティング Follow the light

 ラストオブアスのライティングの特徴の1つは、ライティングでユーザーを誘導している、という所です。

前回は「ユーザーを導くカラー」についてのお話しをしましたが、今作はカラーだけではなく、ライティングによっても誘導を行っている為、

毎度の誘導イエローを避け、過去のノーティードッグ作品より自然な誘導表現がなされています。

(前回の話は以下リンクからお願いします)

mokapurin.hatenablog.com

では具体的な誘導方法を見ていきましょう。

これでマップが無くても迷わない、太陽についていけ!

今回のラストオブアス2ではマップすらない状態で、大きいマップを探索するシーンが何度かあります。

たとえばエリーがテレビ局を探すシーン、アビーが水族館に行くシーンです。

両者はマップが無いのはもちろん、直線的な道のりではありません。
建物に入ったり登ったりと、目的地までかなり複雑なルートをたどることになります。

しかし、両者ともにとても分かりやすいナビがあります。
太陽の方向に向かって進むのです。
たとえばアビーが水族館に向かうシーンでは「夕日の方向に水族館がある」といった発言をしています。

これにより、コンパスUIが無くても、太陽そのものがコンパスとして機能します。

前回話した「誘導カラー」は、その方向をむかないと見つけられない、というケースがありますが、太陽方向の誘導であれば、太陽の方を向けば正、逆側をむけば誤、ということでどっちをむいていても自分の状態がわかる、すごい誘導なのです。

以下例を見ていきましょう。

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最初の森でも太陽誘導が使われています。ユーザーはディーナとの会話に耳を傾けながら、自然に森を抜けられるようになっています。

 テレビ局はどうでしょう。

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テレビ局は光源方向にあります。

目的地を太陽方向にすると、ユーザーも自然と明るい方を目指しやすいのはもちろん、

ライトシャフト(隙間から差し込む光の筋)や、レンズフレアといった光学的エフェクトが自然に入る事になるので、製作者側としても美しい情景を作りやすくなります。

次の探索場所の病院も同じような方角設定になっていますね。

 

私が探索パートで一番すきなのは以下アビーちゃんの水族館に向かう所ですね。

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光の方向に向かうのは一緒ですが、夕方で光源の高度が低いので、光学エフェクトがエリーのパートよりもより頻繁に見えるようになっています。

また、フォグ(霧)ですが、おそらくスキャッタリングフォグという指向性のあるフォグをつかっています。

指向性というのは光源の向きに強く反応する、ということです。

このように太陽の方向にすすませることで、常に印象的できれいな情景をユーザーに見せることができます。方向を示しつつ、さらにきれいな風景が見えて一石二鳥です。

 また、これはエリー編の地下道です。

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ここではディーナが「光に向かってすすもう」的は発言をしますね。

このような洞窟内のような状況は、カラーによる誘導をしてもよく見えないですし、明るいところに出たいというユーザー心理に乗った自然な誘導をすることができます。

 

こう見ると、なんか当たり前の事のような感じがしますが、ここまで意識的にやっているゲームって意外と少ないです。

特に日本のRPGはミニマップやコンパス、UIに頼りがちです。

ひと昔前のゲームは、「光を当てないと暗くなってしまう」ということがあり、PS2~3時代では逆光は良くないという風潮がありました。

これは、ライティングの表現が貧弱だったため、影面や、影の中に入った時の表現がつまらなく見えてしまったからです。

しかし、PS4世代ではハードのスペックが上がった事で高度な間接光表現ができるように、そういった事に気を使ったライティングをする場合に於いては、むしろ逆光の方がきれいに見えるようになってきました。

ライティングをする人は、光源の方向については何となく決める、とか、いつも南からでいいや、で決めるのではなく、ユーザーの進行に光源方向がどう影響するか、という事を考えて決めるべきだと思います。

 技あり誘導ライト

この話の最後に、私が一番技ありを感じたライティングを紹介します。

こちらはエリー編、教会の中から脱出するシーンです。

まず布がかかった台の上に上り、その後ロープによるターザンで反対側の窓から抜けるルートで、ユーザーに複雑な動作をさせる箇所です。

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ここのライティングがすばらしいのです。下のライティングをみてください。

まず、最初の台の所に上の天窓からの光が当たっています。

そこからさらに、ターザンするルートに対して光の道の如く窓の光が落ちています。

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これはこのステージのライティングする方が、「この位置に光を落としたい!」という明確な意図を持ってやらないと、こうもドンピシャには光は落ちません。

もちろん、台を誘導イエローにしすることもできます。

が、このシーンは背景の光を生かすことで、とても自然で美しい誘導になっています。

ノーティードッグのライティングアーティストの方の仕事が素晴らしいと感じたシーンの1つでした。


ユーザーの感情を誘導する ハリウッドのライティング手法

海外の映画のライティング手法として、その場面の感情と、ライティングの色(=時間天候や照明の色)を完全に一致させる、という手法があります。

たとえば、ロマンティックな告白シーンは夕暮れ時、

戦いの場面は雷鳴とどろく雨の中、といった風です。

日本映画でもそういった手法はもちろん取られていますが、
ハリウッド映画や、その技法をつかっているAAA洋ゲーはそのやり方が徹底しています。

和ゲーだと、シリアスな戦いなのに青空なんてのはよく見かけちゃいますね。

ラストオブアス2ではそういったミスマッチは一切ありません。

・安心と希望:温かみのあるオレンジの光

・恐怖と怒り:赤

・不穏:グレー

この3つが全シーンに於いて徹底されています。

上の色設定はオーソドックスなので、赤はもともと「怖い色」として感じる方が多いでしょう。

ただ、もしそう思わない人がいても、使い方を徹底して何度も何度も行うことで、「赤い色の時に必ず怖いシーンだから、赤は怖いシーン」と無意識に刷り込みを行うことができます。

もちろん、ストーリーを伝える一番の要素はキャラクターの演技によるのですが、
ライティングの刷り込みにより、オレンジの光を出すだけで受け手は自然に「ああ、優しいシーンなんだ」と感じ、赤い光をみると「なんかヤバい事が起こりそうだ」と感じるので、より強く感情を表現することができるのです。

いくつか例をみてみましょう。

安心と希望:温かみのあるオレンジの光

オレンジの光の例です。

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これらは主人公であるエリーが心の安らぎを感じるシーンです。

上から「恋人とのダンス」、「ジョエルとの誕生日」、「愛する者たちと住む新居の農家」です。

どの絵からも幸せなイメージが伝わってきますね。

不穏:グレー

これについてはわかりやすいのが農家のシーンです。

上のオレンジの農家と、下のグレーの農家と比べてみましょう。

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 こちらは、物語のエンディング、「愛する者たちが去ってしまった農家」です。

ここでは空は曇天で、白黒のような味気ないイメージになっています。

こういった天候操作は偶然ではなく、ライティングアーティストが意図的にやっているものです。

また、Lastofus2は、物語を通して幸福なパートより、不穏/不安なシーンが多いので、

全編を通して曇天、雨、夜、などのグレーなシーンが多用されています。

その為、ドラマティックな夕方や、きれいな晴れのシーンが、

特に心地よいものとしてユーザーに感じられるのです。

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エリーやアビーの幸せな回想シーンは、美しい自然と共に、
さわやかな思い出としてユーザーに印象付けられているはずです。

 恐怖と怒り:赤

最後に赤についてみてみましょう。

まずは序盤のシーン、感染者が大量にいる地下鉄での戦闘シーンです。

ここは敵側の人間と感染者がうじゃうじゃといて、序盤の難関です。赤いライティングでぱっと見でヤバい場所と感じられますね。

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こちらはアビーの回想シーンです。

さきほど紹介したさわやかな回想シーンとうってかわって、赤が毒々しい光を放っています。アビーにとって、赤い光を放つ手術室は悪夢の象徴です。

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こちらはエリーが敵方の女性を尋問するシーンです。

ここではエリー自身が、目的の為とはいえ、非道な暴力を行うシーンで、エリー自身が恐怖の対象になっていると言えます。

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最後に、エリーとアビーが劇場でバトルするシーンです。

ここは、劇場の裏の非常灯により、両者が赤くライティングされた中でのバトルとなります。

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ここでは最後にアビーが勝利しますが、アビーの影がエリーの上に乗り、

アビーがエリーを屈服させた事がライティングでも表現されています。

この表現は映画などではよく見られますが、とても印象的な構図になっていると思います。見てるだけでライティングの勉強になりますね…

これらの赤いライティングですが、このように物語の中で感情のピークになる箇所で使われているので、逆に言うと他のシーンでは一切使われていません。

赤い光というのは、地下シーンの非常灯などで、実はよくゲームでは使われるライティングです。

先日プレイしたFF7リメイクだと、ゲームの方向性が違うのですけども、赤含めていろんな色が容赦なく使われ放題だなーと感じました。

しかし、ラストオブアス2では「感情の誘導にしか赤を使いません!」というのが本当に徹底されています。

その為、エリーとアビーの怒りの感情がより際立って、強烈なものとして感じられると思います。

 

最後に、以下のシーンを紹介して終わります。

上の赤い劇場の対決から数年後、

エリーがやっと得られた幸福を捨て、再びアビーに復讐の戦いを挑むシーンです。

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このシーンでは劇場のライティングと打って変わって、グレーの濃霧の中で白黒映画のような色彩で表現されています。

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そして戦いの後、アビーとアビーのパートナは二人で去っていき、

エリーは一人残されます。

このシーンでは怒りでも幸福でもない、戦いの虚しさ、不毛さがライティングでも表現されているのです。

ですからプレイヤーは虚しくなって、当然なんです。

このゲーム、鬱だとか、虚無感がある、という意見が沢山ありますが、このライティングをみても、ノーティードッグの表現したかったところがまさに「復讐の不毛さ」だったと思うのです。

なので、「鬱だから糞ゲー」「虚無感を感じるから面白くない」という評価は、ある意味ノーティードッグのメッセージを真摯に受け止めた結果の感想とも言えますね。

私もプレイした後、エリーはなんであんな行動に出たのだろう、他の結末はあり得なかったのか?と、しばらく考え込んでしまいました。

確かに、さわやかな読後感ではありません。しかし、ゲームをした後にこうやってプレイヤーに考えさせる事が他のゲームにあったでしょうか?

ひとそれぞれ、ゲームに求めているものは違いますから、いろいろな感想があって当然です。

しかし、私はノーティードッグがこれらの素晴らしいライティングや色、表現技術のすべてを使って、私たちにこのストーリーを伝えてくれたことを称賛し、感謝したいと思います。

そして日本のゲーム制作現場からも、こういった素晴らしいストーリーテリングができるものを生みだしたい!と、

一人のゲーム制作者として精進しなければと思ったのでした。

以上、長々と読んで頂きありがとうございました。

この考察が、ゲームデザインに於ける色使い、ライティングの何かの参考になれば幸いです。